白狐の狐踊り

 皆さんは霊媒と呼ばれる存在を知っていますか?。自分の肉体を霊に貸して、その霊に
身を任せ、その霊そのものとなってその霊の意志を告げてくれる者。俗に恐山のイタコと呼
ばれる存在が有名ですが、私が見て来た霊媒者はイタコと呼ばれる存在とは違い、完全
にその身を懸かった霊に自分の身を任せてしまう純粋の超一流の霊媒者で、単に霊の意
志を告げる霊媒ではなく、動作そのものもその霊に成り切ってしまう折紙つきの霊媒者。そ
んじょそこらの行者ならば逃げて行くほどの行も積んでいて神霊が使うところの霊媒者。そ
の霊媒者を通じて面白い話がいくつも語れるのです。

 私が伏見稲荷山に初めて修業に入ったのは昭和56年の1月3日。初めての私は、私の
面倒を見て下さる女先生に従ってお山に入りました。女先生と一緒に同行したのは15〜2
0人程度の信徒さん達。伏見稲荷大社講務本庁の支部になっており、支部のお塚で女先
生が拝み始めたところ、一同がザワザワします。
 私は何だろうと思って周囲の講員さんに聞くと、お線香の匂いが一面に立ちこめていると
騒いでいるのです。神様のお塚の前でお線香の匂いでは誰もが変だと思います。だが、
皆さんはお線香の匂いが漂っているのが解っているのに私には何も匂って来ない。?。
 その時、女先生の脇で拝んでいた一人のご婦人が私の方を見て手る招きをしました。何
だろうと思ってそのご婦人の顔を見た途端、私はアッーと驚きました。その眼差しは恐ろし
いほどに鋭く、何もかも見通すような目。人の目ではない!。誰かがこのご婦人の体を借
りているとすぐに解りました。
 すると、そのご婦人は私に云うのです。先生の手を握りなさい。云われた私はわけも解ら
ずに、お塚の前で一生懸命に拝んでいる女先生の手を握りました。すると、握り返された
手の握力のすごいこと、すごいこと。女性の力ではありません。男の霊が女先生の体内に
入っていると一瞬にして解るほどでした。どなたか解らないが女先生の体を借りている神
霊が、次から次えとその場に居合わせる講員さんにお告げをされます。ところが、私の手
を握ったままで離してくれないのです。
 それらが終わると、女先生の両脇に座っていた先ほどのご婦人ともう一人のご婦人が立
ち上がると、いきなり踊り始めたのです。その踊りの滑稽なこと滑稽なこと。一同、腹を抱
えて笑いました。私はその踊りを見ていて、九州のある地方の盆祭りに白狐の面を被り踊
る狐踊りと同じ振りであると解りました。白狐の踊り。これは、白狐霊かと気付いたしだい
です。
 私はお正月だから、眷属さんが白狐踊りを見せてくれたのかなと思って、近くの古参の信
徒さんにお正月にはこうした光景が起きるのですかと尋ねたならば、どなたも初めて見る
光景だと言われます。
 女先生が拝み終えると、古参の信徒さんが女先生に聞きました。「先生、お線香の匂い
が一面に漂って来ましたが、何かありましたか?。すると、女先生は言われます。あれは
豊川稲荷様が出て来られのですが、何故か豊川の弁天様も一緒に連れて来られたまし
た。その弁天様がお線香の匂いを一杯貰っておられるのでお線香くさいことくさいこと。
 それで一同、お線香に匂いが漂って来たことに納得をしたしだい。しかし、何故に弁天さ
んを連れて出て来られたのかいぶかる講員さんもあったのですが、誰も女先生に理由を
聞こうとはしませんでした。
 伏見稲荷大社講務本庁の支部であったこの講は、某神社の当時の神主でもある女先生
を支部長として、その神社の御祭神は豊受大神様。女先生自身の守護神が豊受大神様と
豊川稲荷神様。

 私にとって不思議だったのは、何故に豊川稲荷神様の眷属の白狐が、豊川稲荷神様が
霊媒として入神していた女先生の手を握れと云ったのか?。おまけに、その場に居た一同
に白狐踊りまで見せてくれたのか?。
 後日、私は豊川稲荷神様のお姿を拝見して、そういうことだったのかと納得したしだい。
そして、弁天さんの出席も私に関係していたのです。
 それにしても、豊川稲荷神の眷属が体を借りて白狐踊りをした二人の霊媒者。自分が狐
踊りをしたことなど、何一つ覚えてもいなかったのです。
 この豊川稲荷神とは現在の豊川市の妙厳寺にある伝説で語り継がれる存在でなく、酒
呑童子で有名な大江山の鬼獄稲荷神であり、大本教霊界物語の中で大活躍する大江山
の白狐の司神の国武彦命に該当します。この大江山の麓に伊勢神宮の元宮とされる元
伊勢宮があり、伊勢外宮の神域内には豊川と呼ばれる地名もあります。

戻る
戻る