稲荷太鼓

 私と女先生と有能な霊媒である二人の御婦人と講の幹部の五人で小豆島の某霊場に
お参りをした時のお話。

 私が師事した女先生は娘時代から神の御代として活躍された方であったのですが、最初
はお不動様の御代であったと云われます。ところがある時、ある相談者の命を助けること
が出来るかという問題に直面した時、お不動様はその命を助けることが出来ないと云われ
て、豊受様が不動明王と縁を切るならばその者の命を助けようということで、泣く泣くお不
動様との縁を切ったと女先生は云われます。
 そのお不動様が小豆島の某霊場の御本尊様。女先生は昔の御祭神であった不動明王
の元に、数年に一度はお礼参りをしていると云われる。
 その小豆島の霊場のお寺に参ったところ、住職が護摩を焚きますと云われます。女先生
はお参りをされる時、ただいな寄進をされるので護摩焚きになるようでした。この時、私達
の一行だけでなく、この霊場を講とする信徒らしき一団も来ていました。
 護摩焚きの準備が出来ると、住職は私達一行を住職の後ろに座ってくださいと勧めま
す。すると、この霊場を講とする者達の一団が不満の声をあげられます。どうして顔なじみ
の自分達を後ろに座らせないかです。住職はそうした声にかまわず護摩を焚き出されまし
た。そして、後ろを振り返って私の顔を見て、太鼓を叩いて下さいと云われます。
 住職から太鼓を叩いて下さいと云われた私はびっくりしました。太鼓の叩き方など知らな
いのです。そこで、右に座っている女先生を見るとしゃがみ込んでいます。どうも神懸かり
が起きている様子です。この状態では相談が出来ません。
 私が後ろを振り返ると、古参講員で女先生が自分と比べててもさほど見劣りがしないと
云う霊力を持ち、白狐踊りをされた御婦人と目が合いました。
 そこで私は○○さん、太鼓が叩けますかと聞きますと、ハイと返事をされます。ではお願
いしますと云うと、○○さんは太鼓の前に進むと太鼓を叩き始めたのです。すると、住職は
護摩を焚くのを止めて振り返って私を睨みます。周囲にいるこの霊場を講とする人達がザ
ワザワと騒ぎ出しました。
 私は太鼓の叩き方を知らないのですが、それで太鼓の叩き方が違っているのだと解りま
した。しかし、○○さんは何も知らないで太鼓を叩いているのではないのです。間違いな
く、一つのリズムで叩いてはいるのです。しかし、これは不動明王太鼓の叩き方ではない
ので周囲がざわめき始めたのです。
 私が慌てて女先生を見ると、必死の形相で何かを堪えておられます。印を切らないよう
に耐えておられるのです。私はその様子を見て、もし女先生が印を切れば、この霊場の御
本尊である不動明王様が女先生の体内に入り、住職は護摩檀からひきずり下ろされ、神
の世界など何も解っていないこの霊場を講とする信徒さん連中は、不動明王様の力でお
堂を囲う羽目板までふっとばされると感じました。
 この霊場の御本尊である不動明王様が怒っている。それをさせない為に女先生が印を
切るのを必死に堪えているのが解りました。女先生はかってはこの不動明王様の御代で
もあったからです。
 私がどうすればよいのかと途方にくれた時、○○さんが叩く太鼓のリズムが変わりまし
た。この太鼓のリズムならば私も聞いたことがあります。不動明王太鼓です。住職はやれ
やれと云う顔をして護摩を焚き始めました。この霊場を講とする者達も不動明王太鼓にな
ったことでようやく静かになり、無事に護摩焚きが終わりました。
 ○○さんが太鼓を叩き終えたので、私は○○さんに聞きました。○○さん、貴女は太鼓
の叩き方を知っておられたのではないのですかと。
 すると、○○さんは私にとんでもない返事をするのです。私は太鼓の叩き方など知りませ
ん。ただ、神様(当時、女先生が私のことを講員さん達に肉体を持った神様だと告げていた
為)が太鼓を叩きなさいと云われたので、これは神様(私のこと)の御命令だから太鼓を叩
かなくてはいけないのだと思って、ハイと云って太鼓の前に座っただけです。後のことは何
も覚えていません。
 確かに、支部に太鼓はあっても誰も叩きません。太鼓の叩き方を知る講員さんもいない
のです。霊媒者のなせる術。
 その時、女先生が私に説明をされます。最初、お客様である豊受様が御出座をされたの
です。それで、○○さんが叩いていたのは稲荷太鼓なのです。そして、お不動様が出られ
たので不動明王様の太鼓になったのです。
 私は女先生に聞きました。先生は印を切るのを耐えておらましたね。切ったらどうなりま
したか?。すると、女先生は答えられます。お客様である豊受様が出て来られているのに
何も解らずに文句を言っている住職や信徒さんに御本尊である不動明王様がたいそう怒
りになって、私が印を切れば住職を護摩檀から引きずり落とし、あの信徒さん達を羽目板
まで飛ばすことになったでしょう。だから、印を切らないように必死に耐えていたのです。 
 私は、ポッリト云いました。先生、印を切ればよかった。そうすれば、あの住職もあの講員
さん達も目が覚めたでしょう。
 女先生は私の顔を見て。そんなことをすれば、しっちゃかめっちゃかになっていますよ。
 私は、それでも印は切るべきだったのですと告げました。

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