お灸をすえられた人

 これは、私が伏見稲荷大社講務本庁の某支部に所属していた時の支部幹部さんの体験
談。

 この幹部講員さん。ある事件が起きる前まではまったくの無神論者であった。自分の家
の庭に古い祠が在るが、誰が祭ってあるのかも知らず、その祠が朽ちてしまった。そこで、
風呂の焚き付けにとその祠を壊して燃やしてしまった。
 ところがその後、この方は金縛りにあったように体が硬直して動けなくなった。目だけは
ぐるぐると回るのだが、言葉も発せない状態。それで家人が近所の人に手助けを求めたと
ころ、近所の助けを求められた男衆、何を思ったのか近くの医院に運ぶのではなく、その
方を戸板の上に乗せて遠くの稲荷神社まで運んだのである。誰かが、この方が祠を壊して
風呂の焚き付けにしているのを見て、祟りを受けたと見抜いたのかも知れない。
 社務所で神霊相談を行っていた女先生。戸板で運ばれて来たその方を見るなり、この罰
当たりがと言って、頭に特大のお灸をすえた。頭に特大のお灸をすえられて熱いと言った
時、この方はやっと動けるようになった。
 動けるようになったこの方は、自分でも何が起きたのか解らずに女先生に説明をしてもら
ったところ、その方の家の庭には御先祖が信仰されていた稲荷神様があり、その稲荷様を
祭るどころか、その祠が朽ちてしまったので風呂の焚き付けにしてしまった為に、その稲荷
神がたいそう怒られて、その人を金縛りにしてしまったとのことであった。
 それまではまったくの無神論者であったこの方、それからは一生懸命に信仰に励んで、
自分の家で祭る稲荷神の御利益を多大に受けておられる。

 かく言う私の家系も、これと同じ様な状態の事件が起きている。私の従兄がガンで入院
をした時、従兄の母である叔母と従兄の弟である二人が田んぼで作業をしていると、その
前を見事な銀狐がコーンと鳴いて走り去った。それを見た叔母は、私の家系の本家が在っ
た場所 に稲荷の祠があり、その祠が裏山から崩れて来た土砂で埋もれていることを思い
出した。そこで二人してその土砂を除いて祠のお掃除したところ、ガンで入院していた従兄
は無事に退院をして来た。そして従兄も元気にしていた。
 ところが、その祠がまたもや裏山の土砂で埋もれてしまった。だが、叔母は何もしなかっ
た。すると、従兄は急激に体が悪くなり、あっという間に帰らぬ人となってしまった。叔母は
自分の失態だと悔いるとともに、従姉に言って稲荷神様を伏見稲荷山にお返しをした。
 私は自分の家の家系に稲荷の祠があったなど露知らず、稲荷神界に修業の足を踏み入
れたところ、私が生まれた頃の状態を稲荷神から聞かされることになった。
 私の祖父とその長男は仲が悪く、祖父が家を飛び出した。本家を取ったのが長男。祖父
は別のところに家を建てた。その祖父の後を引き継ぐことになっていたのが三男坊の私の
父親。その跡継ぎとして祖父の家で誕生したのが私。私が生まれた家の家系に関わる
神々は、家系に関わる神霊系の跡継ぎを私とした。
 だが、事情があって叔母の子であった従兄が戸籍上は私の父親の弟になり祖父の家を
継いだ。だが、従兄も本家にあった稲荷の祠のことなど気にもしていなかったはず。

 これも同様の事件。ある方の家でいろんな災いが起きた。そこで女先生が調べたところ、
この家も庭に稲荷神の祠があったが、当主は祠が壊れていても知らぬ顔。当然にお給仕
もお祭りも何一つ行われてはいなかった。稲荷神が伏見山に帰せと怒っておられる。そこ
で、祠を新築して家で神事を行うことになり、私も神主の手伝いとして白装束で神事に参
加した。すると、仏壇のお線香が見事なほど真っ直ぐに上る。
 女先生の説明によれば、子孫がこれまで神様のお祭りを何一つしてくれない。やっと、御
先祖がお世話になった神様のお祭りが出来て喜んでおられるのでお線香の煙が真っ直ぐ
に上がったと言われる。
 ところが、女先生は新築されたこの家の祠の扉を鎖に鍵を付けて開かないように縛りつ
けた。理由を聞くと、この家の者がうっかり祠の扉を開けると御神霊が帰ると云って出てし
まわれる。はっきり言えば、家人に本当の信仰心がない為に神様にとっては居心地がよく
ない家だ。この家は神様が出て行ってしまうと没落をする。それを防ぐ為だと言われる。

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