よく、狐や狸に騙されたと云う話があります。昔から云われて来たことは、本当に美しい
娘さんが出て来て、ぞっこんに惚れたら狐に騙されていたと云う話。

　それに近い話が、稲荷行者の中には存在します。これは私が教えを受けた女先生自身
が実際に体験したと云う騙しの話。

　私が伏見稲荷山に上がった時、女先生から注意を受けた。××さん（私）。行をしている
時は注意して下さいね。行をしている時、男の行者であったら飛びきりの美女が、女の行
者であった飛びきりの美男が近づいて来ます。その色香に迷ったら、その行者は終わりで
す。狐さんが化けて誑かしに来ます。私はそうした色香に負けてダメになった行者をたくさ
ん見て来ました。これをお試しと云います。そのお試しを乗り越えないと一人前にはなりま
せん。

　女先生も独身の娘時代に伏見稲荷山に修業に入ったところ、ものすごい美男子が近づ
いて来て、そんな辛い行など捨てて、一緒になって普通の生活をしましょう式で来たと云
う。もう少しで行を捨てて、その美男子に付いていく所だったと云う。

　幸いと云うか、不幸と云うか、私にはそうした飛びきりの美女が近づいては来ませんでし
た。ただ、伏見稲荷山の白菊姫（豊受姫の別名ともされている）を幾度か見ることがあった
のですが、その可憐さ可愛さは特筆するほどのものがありました。もし仮に白菊姫が白狐
さんであったとしても、白菊姫が自分の相手ならば地獄の底まで行きましょうと言えるほど
の美しさを持っておられた。神霊界の姫姿の方は、どなたも美しい。

　よく絶世の美女には狐が懸かると云います。絶世の美女に取り憑いて、権力者の愛妾と
なって政治の世界を裏から動かして行く。そうした場合は金毛九尾の狐の仕業とされてい
ます。

　神霊世界に関わっていますと、野狐と呼ばれる存在が少し霊感がある美しい女性に取り
憑いて、わらわは○○大明神であるぞよと言って出て来ます。その女性のお尻から霊的
に大きな尻尾が見えており、後ろでくすくす笑いをかみ殺し、何食わぬ顔でこれはこれは
○○明神様と頭を下げておいて、後で大爆笑をすることもあるのです。

　　

　世間一般には知られていないお話が神霊世界にはゴロゴロしています。霊の世界と云う
と恐いと云う観念の方が多いようですが、入って見ると修業は辛いけれども、それはそれ
なりに面白いし勉強になる世界でもあるのです。