酒を飲みに来た黒龍神

 これは白狐ではなく、黒龍と呼ばれる黒色の龍神の話。一般的には龍神とは、蛇霊が海
や川や山で各千年、合計三千年も修業を積んで龍に成ると云われており、霊の世界では
大蛇霊と呼ばれている存在。その霊力は強力で、霊能者と云えども震え上がるような存
在。


 女先生から支部の有志で忘年会をしましょうかと云う話になり、女先生と霊媒が出来る
二人の御婦人と支部幹部1名に私の5人で、京都の丹後半島伊根の手前の民宿で一泊
の忘年会をすることになった。翌日は日曜日だったが、私は仕事の関係で朝立ち、女先生
一行はそのまま伊根町の浦島伝説で名高い浦嶋神社に参拝予定であった。
 民宿先は網元の家であった為に、地の新鮮な魚が並んでいる。私がふと女先生の顔を
見ると、?。何神かは解らないが何時の間にか女先生の体に入って料理を食べている。
霊的に見ると頭に烏帽子をつけており男の神霊だと解る。しかし、服装は稲荷神達が着て
いる様な絹物ではなく、質素な暗い色の木綿系の服装である。神霊の位としては高くな
い。しかも、若い。神の世界で云えば、高校を出て社会人になりたてのようなホヤホヤの神
霊だと解る。
 こらー。誰の許しを貰ってこの宴席に居るのだと一喝しょうと思ったが、今日は忘年会で
ある。どこの神霊かは解らないが、酒を飲みたくてやって来たのだろうと考え直し、飲めと
云って酒を勧めたら、私に顔を向けないようにして盃だけを出す。私に見破られたことで、
バツが悪そうな顔をしている。
 酒を勧めたら、ぐいぐい飲む。強い。その間、一言も発しない。私以外の講員さん達は女
先生に神霊が入っているのを気付く様子もなく盛り上がっている。これが女先生だったら、
私にお酌をして下さるのだが、この神霊は私の方には顔を向けないようにして盃だけを差
し出して来る。仕方がないから、こちらは手酌である。皆が酔っぱらって出来上がった頃、
帰って行ったようである。
 翌朝、私は女先生に聞いた。昨夜、先生の体に入って料理をたらふくに食べて、酒をぐい
ぐい飲んで行った神がおりましたね。誰です。すると、女先生が云う。実は、私にも誰なの
か解らないのです。
 その民宿で私は女先生と別れた。女先生一行は浦嶋神社へと向かった。

 後日、女先生が相談を受けている神社の社務所に行くと、女先生が云う。××(私)さ
ん。この間の酒の飲みに来た神様、浦嶋神社の黒龍さんでしたよ。
 浦嶋神社に参拝したら黒龍さんが出て来られて、昨夜はゴチになった。私達が浦嶋神社
に参拝に来るのを事前に知られて、それならばゴチになろうとあの席に来られたそうです。
未だ神様に成り立てだから、大変みたいですよ。
 私はその言葉を聞いて、道理で若い顔立ちだった。黒龍神であるから、質素な霊衣(霊
が霊界で着る服装)であったことを知った。

 それから20年以上経過して、またもやこの黒龍神と関わる出来事が起きた。神業で丹
後の某ホテルで泊まっていると、誰か神霊が来ている。どこかで見た顔だが思い出せ無
い。私に用があるのではなくて、私と同行していた女性の一人に用事があった。そして、そ
の女性に丁寧に挨拶をして用件を伝えた。伊根の浦嶋神社に仕える黒龍ですと、それで
私はあの時の男だと思い出した。あの時よりも大人びた顔をしていた。


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